これは一ヶ月前のこと。ブリッツシュラークのソール大神殿にて…。
「おい、ジノヴィー、ジノヴィーはいるか?」
と、浄衣を着た、どう見ても神職の人にしか見えない大司祭が君を呼んでいる。
(浄衣というのは、神職…端的に言うと神主さんが普段着としているもの。因みに神職の正装を狩衣という)
返事を返した(?)君に対して、大司祭はこう答える。
「少し用事があってお前を呼んだ」
「最近、ヴァッサーラント国王、ナハト・フェーンハフトが自分の娘を修行の度に出させると言い出してな」
「お前、知らないのか。『フェーンハフト』は妖精魔法に秀でたエルフに与えられる姓で、ヴァッサーラントのみならず、エルフが主体の王国では貴族階級なんだぞ」
「とまあ、そんなことはさておき」
「…さて、そのフェーンハフトの一人娘に会いたくはないか?」
「とぼけるなよ、お前だってそういう年頃だろ。それに、後々ヴァッサーラントの国王になるかもしれない娘なんだ」
「今のうちに親交を持っておいた方がいい。後々のことも考えてな」
「ということだ」
「理由?」
「考えてもみろ、まだ世間も知らないエルフの小娘一人に、司祭や高司祭がお供してたら不自然だろう?」
「それに、王族が街中を出歩いているんだ。そのことが大っぴらになったら、ヴァッサーラントは大混乱に陥るぞ」
「出来るだけ普通の冒険者のように振舞えるほうがいい。だから神官になりたてのお前を俺は選んだ」
「これじゃ不十分か?」
「まあ、おまえ自身の修行にも丁度いいと思ってな。ヴァッサーラントに行って、フェーンハフトの小娘と一発…おっと失言だった」
「とにかく、行ってこい!」
ジノヴィー・サネユキ・メッケルの旅は、ここから始まるのであった。そしてその目的は、”フェーンハフトの小娘と(ごにょごにょ)すること”であった。
ってそんなわけねーから!
そんなこんなで、ジノヴィーははるばる…というわけでもなくヴァッサーラントの首都、バッシンドルフに来たわけだけど。
そこは王都だけあって、ヴァッサーラントで1番賑わっている場所だよ。でもまあ、エルフ基準での話だから、普通の人間にとってはどうかはわからないけど。
今君の周りには、大通りの隅の方で昼間から水浴びしているエルフ一人と、剣を腰に差しているエルフの戦士、そして見た目人間の行商人がいるよ。
(水浴びしているエルフに話を聞いてみる)その人はこう答えるね。
「ああ、そういえば最近、王城の方が何かよくないことでごたごたしているとか聞いたことがあるね。一体何かあったのかな?」
「そうそう、ここ最近、王女様が成人なされたんだよ。それで王様が『宴だ宴だ、娘の誕生日という日を私と妻、そして娘の一生の記念日とするのだ!』とか言ってさ」
「でもさ、普通は子供の誕生日って、その子が生まれたときに記念日になるもんだよね」
「王様もそのことわかってるはずなのに、おかしいよねー。あはははは」
と、ひとしきり笑った後、取り留めの無い話をしようとしてくるけど。
(エルフの戦士に話しかける)その人はこう答える。
「エルフの女の子で、新米冒険者だなんて。そんなのを探してどうするんだ?」
「そんなことより少年、私と組まないか?」
「何を隠そう、私はかの有名な<プリンも木から落ちる亭>の冒険者なのだぞ」
「…え、知らない?」
「そんなことはないぞ。何せ<プリンも木から落ちる亭>はな…」
「世にも珍しい、金欠で不潔、さらに仕事は無い、と最低な<冒険者の店共同体(AVG)>の1勢力だからだ!」
「うう、悲しいよ…君みたいな筋のよさそうな人はみんなあの<虹の橋亭>に所属することになるんだ。あの憎きマイルが私の経営をジャマするから…っ!」
収拾つかなくなりそうなんでその場から離れた方がいいと思うよ。
(行商人に話し掛ける)その人は君の病的なまでの肌の白さや、かぶり物をしていることからナイトメアだと、そして聖印のシンボルを見てソール神官だということにも気付き、応対をする。
「おや。君はナイトメアのソール神官か」
「別に、熟練の冒険者なら誰でも気付くことさ。俺だってほら」
と言って、行商人は頭に巻いていたターバンを取って、君にしか見えないように頭の角を見せるよ。
「それより、トリウムは元気でやってるかい?」
「なに、少し親交があってね。大体200年くらい前からかな」
「それで、なんだったっけ」
「ああ、エルフの少女の新米冒険者を最近見なかったか、ってことか」
「見てないけど、面白い話なら聞いてるよ」
と、大司祭から聞かされた内容を話す。
「っと、もう知ってたのか。となると、君のお目当てはその娘さんのようだね」
「でも、これはさらに最近の話。多分君は知らないことだよ」
「国王は自分の娘の誕生日の翌日を、娘の旅立ちの日にしたらしいんだ」
「そして、その娘の足取りを追っていくと、ここからそう離れてはいない都市、エルクにたどり着く」
「その娘に会いたいなら、エルクに行けばいいと思うよ」
行商人はエルクまでの行程を君に伝える。エルクまでは馬車で1日、と言ったところ。
「何で知ってるかって、それは秘密だよ。セールスマンは自分のことは語らない、これは常識だから覚えておきな」
「でも、自分の名前は教えるものさ。俺の名前はバイラス。バイラス・エルギュント・キルエルだ」
「いつかまた会えるといいな、少年」
そう言って、行商人は去っていくよ。
行商人の情報を元に、君はエルクに来たわけだけど。
ここらでエルクについて簡単に紹介をさせてもらうよ。
エルクは、ヴァッサーラントの中でも比較的乾燥した地域にある都市です。
気候的に作物が育ちにくい環境であるため、他の都市からの食物に頼りがちです。
この都市には優れた芸術家が複数いて、また加工技術も進んだものとなっています。
また、この冒険者の店が多数存在し、<プリンも木から落ちる亭>の本部もここエルクに存在します。
昔はこの冒険者の店は賑わっていたようです。
しかし、最近は向かいにある<虹の橋亭>に仕事と冒険者を奪われがちで、どことなく寂れた雰囲気をかもし出しています。
芸術家が多いせいか、それはつまり変人が多いということにつながるね。
あまり長話をすると抜け出せなくなるからその辺はよしておいた方がいいかも。
この街の冒険者の店は大きく分けて3つほどある。
ひとつは<虹の橋亭>。レインディアの<冒険者の店共同体>のなかで最も勢力の強い共同体。
ひとつは<たわわなヒゲ亭>。ヴァーベンリヒの都市、シュミートに本部を置く。<冒険者の店共同体>のなかでは中堅にあたるよ。
そしてもうひとつ。先ほど会ったエルフの戦士が属していた<プリンも木から落ちる亭>。これはまあ、所属している冒険者も少ないし、仕事も少ない。はっきり言って熟練の冒険者が来るところじゃないね。
冒険者の店に行くなら、どの店に行くか宣言してね。
(<虹の橋亭>に行く)じゃあ、扉を開いたところで君はこう言われる。
「なんだあ、見ない顔だな。悪いが今は新米は募集してねえんだ。お引取り願いたいね」
「どうしてもというなら、実力を試させてもらうが…ダメだな、お前のようなやつは」
「実力を証明する何かを持ってきてから来な」
と、門前払いされるね。
(<たわわなヒゲ亭>に行く)
「お前、ヒゲ生やしてねえじゃねえか。こちとらヒゲのない冒険者はお断りだぜ」
と、理不尽な理由で追い返されるよ。
(<プリンも木から落ちる亭>に行く)じゃあ、店に入るときに後ろから声をかけられる。
「おや、君は先日会った少年じゃないか」
「お、そうか。私の店の冒険者になってくれるって言うのか!」
「そうとなれば話は早い。これで私の店も復活の兆しが見えてきたぞ!」
と、かなり強引に君を店の中へ突っ込むよ。
「さっき『私は冒険者です』って言ってた女の子がいたけど、あの子も初心者っぽいからね。でも一人で依頼を請けさせるわけにも行かないし」
「でもそこで、君が来た。これなら私も安心だよ。あの子、運動とか苦手そうだし」
「ああ、あの子だよ。ほら、あそこのカウンターできょろきょろしてる子」
そのエルフの女の子は、大司祭から聞いていた「フェーンハフトの一人娘」の特徴と符合しているね。
その子は店内に入ってきた君を見つけると、近寄って、話し掛けてくる。
「あの、すみません。冒険者の方ですよね?」
「私、まだ冒険者になって間もないんですよ。だからこういうときの勝手がわからなくて…」
「もしよろしければ、冒険者のいろいろなことについて手取り足取り教えてくれませんか?」
「ありがとうございます!」
「あ、自己紹介しますね。私はアイネ・フェーンハフトと言います」
「ジノヴィーさん…ですか。少し言いにくいので、ジノさん、と呼ばせてください」
「今のところ、依頼はひとつしかないみたいですよ」
「でも、5人以上が条件らしいですから、少なくともあと3人は必要みたいですね」
「マスターが他の人たちを探してくるみたいですから、私たちはのんびり待ちましょうか」
「宿なら心配要りませんよ。マスターが特別に部屋を貸してくれるそうですから。お代とかもいらないそうです」
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