3.1 過渡現象について
定常状態は、ある動的な現象(流体の流れ、熱の伝導など)が、時間的に変化しない状態のことを指す。電気回路では、電流や電圧が時間的に変化しない、つまり回路にある条件に変化を加えてからしばらく時間が経ち、回路が安定状態に至った後の状態のことを言う。過渡状態は、ある定常状態から別の定常状態へ変化する間での間に起こる、ある系のある点において、その値が時間的に不安定な状態を指し、その期間を過渡期間と呼ぶ。その期間中に起こる現象のことを過渡現象と言う。電気回路では、回路の条件を急変させたとき(スイッチをオン、オフしたとき)、電流や電圧が変化し始め、その変化がある一定の値で落ち着いて他の定常状態に至る間出に起こる現象のことを言う。このほかの定常状態へ至るまでの状態を過渡状態と言い、その期間を過渡期間と言う。
3.2 微分方程式を用いた解法
電圧v(t)、電流i(t)、抵抗R、インダクタンスL、キャパシタンスC、時間tのとき、R、L、Cそれぞれの素子の電流または電圧は、
v(t)=Ri(t) … 抵抗R
v(t)=L(di(t))/(dt) … インダクタンスL
i(t)=C(dv(t))/(dt) … キャパシタンスC
となる。これらを用いてキルヒホッフの法則により電圧、または電流に関する微分方程式を立て、一般解を求め、更に初期条件から定数を決定することが過渡現象解析の基本である。
3.2.1 RL直列回路
図3.2.1に示すようなRL回路の場合、回路方程式は
Ri(t)+L(di(t))/(dt)=E (3.3)
となる。この微分方程式の解は、E=0としたときの解itと、E≠0としたとき、(3.3)式を満足する一つの特殊解isとの和
i=it+is (3.4)
で表される。ここで、特殊解isは定常状態にすることで簡単に求められるので、そのようにして求めたisを定常解と呼ぶ。その場合、itは過渡状態を表すので過渡解と呼ぶ。定常解isは直流電圧しかない受動回路では、最終的に時間変化がなくなるため、di/dt=0とすればよく、
is=E/R (3.5)
となる。過渡解は
Ri(t)+L(di(t))/(dt)=0 (3.6)
の一般解で与えられるので、(3.6)式を解くと、
it=Aexp(-(R/L)t) (3.7)
となる。(ただしAは積分定数)よって、(3.4)式より
i=E/R+Aexp(-(R/L)t) (3.8)
が答えになる。積分定数Aは、初期条件によって決まる値である。スイッチをOFFからONにした場合、初期状態はt=0、I=0なので、
0=E/R+A → -E/R=A (3.9)
よってA=-E/Rとなり、
i=E/R(1-exp(-(R/L)t)) (3.10)
となる。
RL回路において、電流最大値はE/Rである。また、時間tへの依存性はL/Rの何倍の値
を持っているかで決まる。この二つで規格化した特性を図3.2.2に示す。ここで特に時間L/Rのことを時定数τと呼び、
i=E/R(1-exp(-t/τ)) (3.11)
と表す。t=τで定常値の63%、5τで99.3%となる。またt=0 で接線を引くと、その接線が定常値の値になるのは、t/τ=1 のときである。
3.2.2 RC直列回路
3.2.3に示すようなRC直列回路において、スイッチSをt=0で閉じた直後の過渡状態を回路方程式で表すと、コンデンサに溜まる電荷qを時間微分すると電流iとなるので、
R(dq/dt)+q/C=E (3.12)
となる。RL直列回路のときと同様にして解くと、
定常解:qs=CE (3.13)
過渡解:qt=Aexp(-t/CR) (3.14)
となる。この回路における時定数τ=CR、初期条件t=0でq=0とすると、
q=CE(1-exp(-t/τ)) (3.15)
q=CVより、
v=E(1-exp(-t/τ)) (3.16)
が導かれる。
3.2.3 RLC直列回路
図3.2.4に示すRCL直列回路において、スイッチSをt=0で閉じた直後の過渡状態を回路方程式で表すと、
L(di(t))/(dt)+Ri(t)+1/C∫i(t)dt=E (3.17)
となる。この式の両辺をラプラス変換すると、
V/s=L(sI(s)-i(0))+RI(s)+1/Cs(I(s)+q(0)) (3.18)
q(0)はt=0におけるコンデンサCの充電電荷で、q(0)=0、またi(0)はt=0におけるコイルLの電流でi(0)=0 とすると,I(s)は
I(s)=(V/L)/(s^2+sR/L+1/LC) (3.19)
上式を逆ラプラス変換する。(s^2+sR/L+1/LC)=(s-α)(s-β)とおき、A/(s-α)+A/(s-β)のA、B、α、βを求めると、
α=1/2(-R/L+√((R/L)^2-4/LC)) (3.20)
β=1/2(-R/L-√((R/L)^2-4/LC)) (3.21)
A=1/(α-β) (3.22)
B=-1/(α-β) (3.23)
これらより、過渡電流iは
i(t)=V/(L(α-β))(e^αt-e^βt) (3.24)
となる。(ここではα、βの代入は避けた)定常電流isは、t=∞のとき0となるため、is=0となる。
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