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二人を置いて私はその迷宮を抜け出そうとして、走った。時には魔物と出会った。それをなぎ倒していき、命からがら迷宮を抜け出した。しかし、その時何をしたのかは覚えていない。確かなことは、今まで使えた妖精魔法とは、明らかにレベルが違いすぎたことと、頭の中に不思議な声が聞こえていたこと。
その声が話していたことは、今となっては内容は思い出せない。
しかし、私はその声に守られていたのだろう。そして、私は一人で生きていかなければならなくなった。とはいえ、ラックたちから教わったのは戦闘に関する技術だけであり、それだけで旅をするわけにはいかなかった。
だから、ひとまずは生まれ育った町で旅の連れを探すことにした。
そうして、今…。
私は…。
ラックたちが挑んだ魔剣の迷宮、それは真なる剣の仮初の姿だった。
その剣は退屈していた。何しろ、命知らずの冒険者がその剣の存在する場所を知ることは少なく、またその島に人族が移住してきたのは数十年前のことだったからだ。それ故、その剣は自身の退屈を紛らすために、大陸のほうに偽の魔剣の迷宮を作り上げていたのだ。
その仮初の迷宮には初めから剣など存在しない。というより、既に剣が抜き取られた後の迷宮を、その剣が勝手に作り変えているだけなのだ。故にその剣は「蜃気楼」と呼ばれる。
そうして退屈を紛らしているのにも飽きてきた頃、その剣は一人の少女を見る。
「ほう、我が迷宮に足を踏み入れる少女がいるとは。時代は変わったものよ、このようないたいけな少女すら、自らの命を顧みないとはな」
その少女はクライネだった。入り口付近では彼女はラックたちと一緒であった。だが、どういう顛末かは既に語ったこととして、今彼女は一人だった。
「いささか無慈悲ではあるが、元より我が迷宮に入り込まなければ済むこと。どのような者にもそれ相応の対応をしなければな」
彼女は魔物に追われていた。久しぶりに楽しませてもらおう、その剣はそう考えていた。しかし、彼女は死ななかった。ラックたちにかばわれたのだ。
その剣には理解できなかった。何故自らが邪魔者だと言い放った少女に対して、命をかけることが出来るのか。何故その少女はそこまで大切に思われているのか。その理由を知りたいと、その剣は思った。
そして、その剣はその少女に興味を示した。だから、彼女を逃がした。
「我輩は剣。我が仮初の迷宮を抜けたならば、此方より南方に位置する島へと赴くが良い。其処には我輩の真なる姿が在る。少女よ、お主が我輩の器を手にしたいと望むのならば、力を欲するのならば、そして、我輩を憎むのならば、お主と我輩、今一度相見えることとなるであろう…」
その言葉を、当の本人は覚えてはいない。だが、運命というものだろうか、その剣の予言どおりに、事は進んでいった。
剣は謳う。その少女の賛美歌を。
剣は唄う。その少女のために散っていったものたちへの鎮魂歌を。
剣は詠う。その少女が紡ぐ叙情詩を。
剣は詠う…。剣は詠う…。
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で、恩背の内容に続く、と
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