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父親は依頼の最中、蛮族に殺され、以来私はあの冒険者一行の手によって育てられることとなった。
思えば、そのせいかもしれない。この時の私は、言葉遣いも今より荒かったし、何より泥だらけになることに抵抗など無かった。
町外れの荒野にて。
こんなところで何をするのかと言えば、日課だ。
細かいことを言えば、剣の稽古だ。
「おー、また転んだ。相変わらずドジだな。お前は」
手頃な岩に腰掛けているドワーフが言った。
「うるさいなこの毛むくじゃら。ただ滑っただけだっての!」
「それがドジだって言ってんだよ。このボサボサ頭!」
「いつも酒飲んでるだけのオヤジが何言っても説得力ないんだよこの体毛馬鹿!」
「なんだとお、やるかコラ!?」
「上等だ。その毛全部むしり取ってやる!」
ドワーフの元へ走り出そうとしたその時、私は服を掴まれた。
「全く…何やってるんだお前は」
クライネを軽々と持ち上げ、そう言ったのはリーダーだった。
彼の本名はラクドース・ローレイバート。そこそこ有名な冒険者の剣士で、クライネの
育て親であり、彼女の主だった男だ。
「そんなことじゃいつまで経っても俺たちの足を引っ張るだけだぞ。この前だってお前、
がむしゃらに突っ込んでいって敵の目の前で盛大にこけたじゃないか」
「う、うるさいっ。あれはただ…い、石につまづいたんだよ!」
「あのな…。戦闘中にそれじゃ困るって言ってるんだよ」
クライネは頬を膨らませる。リーダーはクライネのそのしぐさを見て、ため息をついた。
リーダーにとっては、クライネ・フェーンハフトはかつての仲間の忘れ形見であると同時に、また大切な仲間でもあった。
今まで彼女を育ててきたのはそういう感情もあった。だが一番の理由は、彼女にメイル・フェーンハフトの面影を見たからだった。
「ちぇ。俺だって好きで転んでるわけじゃないのにな…」
「わかったわかった。稽古の続きやるぞほら」
そう言って、リーダーはクライネを乱暴に降ろす。
「痛って…。何だよ、全く…!」
ぶつぶつと不満を言いながら、クライネは近くに落ちていたショートソードを拾う。そして、リーダーへと走っていった。
剣と剣がぶつかり合い、時に空を切る音が聞こえては、何かが地に落ちる音が聞こえる。攻撃を避けたり、たまに転んだり。そういった動作の音だ。
そのうち、何かが燃える音が聞こえてくる。
「熱ッ。お前魔法は使うなって言っただろうが!」
「お前が手加減しないのが悪いんだろ!」
「負けそうになったからって魔法使うのはいけねえだろ」
「うるさい、このモミアゲッ!」
その言葉を聞いて、リーダーの顔が歪んだ…ようにも見えた。
「そうか、そんなにこのモミアゲがカッコいいか」
「言ってない、大体カッコもついてないし似合ってない!」
…いや、顔が歪んでいることは確かだろう。だがそれは怒りでもなんでもない。寧ろ逆の感情による歪みだ。
ラクドース・ローレイバートは、確かに腕利きの冒険者だ。その彼が率いる一行もまた腕利きぞろいだ。しかし、彼らには欠点がある。それも、顔を見れば一目瞭然のものだ。特に…耳の手前。
その欠点の所為で、彼らは「モミアゲーズ」と呼ばれている。それはメイル・フェーンハフトにとっても、クライネにとっても不名誉であった。しかし、当の本人たち…メイルとクライネを除く冒険者一行はそれを誇りに思っていた。その名が彼らを蔑むものだとは知らずに、ただ単純に。
しかも、そうなった理由は、ラクドース…ラックの趣味の所為だというのだから、メイルとクライネにとってはそれ自体が落ち度のようなものだった。これまでにこの一行と別れようと思ったこと、数知れず。
「どれ、お前にもおまじないだ。立派なモミアゲに…」
「人の話を聞けッ!」
痛恨の一撃。そう呼ぶに相応しかった。クライネが振り下ろしたショートソードが、リーダーの頭を直撃したのだ。…勿論、刃は抜いてある。リーダーはその衝撃で気絶した。
その後、リーダーを気絶させた張本人たるクライネは慌てふためき、ドワーフと共にリーダーを担ぎ(半ば潰されてはいたが)、町へと戻っていった。
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