ひとよひとよに夢見ごろ
支離滅裂なことを書いてるただの自己満足ぶろぐ。 中の人は基本痛いです
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小さな妖精の幻想歌 3
■
2010/03/11 (Thu) 21:17
「幻想歌」も書き上がり、いよいよ最終部、「賛美曲」へさしかかろうとしている所なんだけど。
まあ、いつものごとくモチベーションが上がらないというわけで。春休み入ってから一人の時間が増えて、執筆速度も上がってるけど。
今回は第四層「妖精の層」の風景と、メイルやルードとの邂逅を主に。
ゲーム的には6対2で闘って丁度言い位にデータ調整はしたはずです。メイルとルードのデータをもう一度使うかは別として、ね。
でもルードたちに先制取られたらウィンドストーム地獄が待ってるから怖い。先制取っても《ブロッキング》持ちのルードがメイルへの攻撃を止めてしまうという。つまり、少なくとも1ラウンドでは終わらない、ということ。
※
こちら
にボスデータ(書式は2.0風)を掲載しています。特に在る意味も無いですが、興味がありましたらどうぞ。
気を失ったことで、ディスティル・ロッドは異貌状態が解除され、痣は光を失って、見えなくなった。
大分出血してはいるが、体力自体は回復できないというわけではない。妖精魔法による回復でも、十分だった。
数分経ったであろうか、ディスティルは意識を取り戻した。ぼんやりとした思考と視界が、彼の理解を遅らせる。だが、自分の記憶が消える直前のことは覚えていた。
「俺は…、そうか、あのドレイクに…」
それからの記憶は、全く無い。だが、周りの状況を見るに、激しい戦闘がそこにあったことは分かる。
ただ分からないのは、クライネが居ることだった。
整理の付かない頭で考えて、たどり着いた結論は…。
「お前が…止めてくれたのか?」
それまでの状況など、全く分からない。だが、そう考えることが、一番自然に思えた。
「止めたわけじゃないよ」
事実として、確かにディスティルを止めたのはドレイクに他ならない。しかしそれも、クライネという乱入者がいたからであり、ドレイク一人ではどうしようもなかった。その意味では、クライネがディスティルを止めた、と言える。
ディスティルは起き上がり、改めて辺りを見渡す。
「だとしても、借りが出来たな」
「別に気にしなくていいよ」
「そうだな、元々お前には貸しばっかりあったしな」
「…相変わらずだな、あんたは」
でも、それがあんただ。
そう思って、クライネは大きな息を吐いた。
ディスティルもクライネも、「ディスティル・ロッド」が戻ってきたという実感があった。もはや悪魔の影すら見えない。確かにディスティル・ロッドは戻ってきた。
《穢れの刻印》は消えたわけではないが、今は気にすることは無いであろう。
ただ、再び彼が一人になるようなことがあれば、悪魔は再びやってくる。彼の体を奪わんと、彼の体と心に現れるのだ。ディスティル自身にその自覚は無いが、「一人になること」を本能的に恐れるようになるかもしれない。冒険者として暮らすにしても、一般人として暮らすにしても、避けられない宿命となってしまったのだ。
ディスティルはふと、自分の手を見る。そこには、ドレイクの血とディスティル自身の血で赤く染まったナックルダスターと、血が固まってうまく動かせない指があった。ナックルダスターに仄かに残るマナが、弱弱しい光を放っていた。それは、悪魔の力を象徴するものだったのかもしれない。
しばらくの間、ディスティルは損傷の回復に努めた。魔法による回復は、体に開いた穴まではすぐに効果を表さないのだ。少なくとも、二回も「勝利をもたらす槍」に打ち抜かれた四肢は、今はまともに動かせなかった。
時が経ち、トーマスが最初に大部屋に辿り着き、次にオウルとシュルヴェステル、レフォーナが到着した。彼らは事態がどうなっているのか分からないようであった。ディスティルもクライネもそれまでのあらましを説明しようとはしたが、どうにも説明しにくかった。
論点のつかみにくい説明しか出来なかったが、そのうち全員が「ま、いっか」と言う考えに至ったのだった。
蜃気楼の迷宮、第四層「妖精の層」。
そこは、今までの場所とは雰囲気が全く違うものだった。
階段を下りた先は自然に満ち溢れている。草木は生い茂り、天井…いや空はどこまでも透き通っていて、近くにあった泉に映った雲は純白そのもので、何よりその場には水のせせらぎや小鳥のさえずりさえ聞こえる。
まるで、それまでの激しい戦いが嘘だったかのようで、逆にこの空間が幻覚なのではないかと疑ってしまうほど、そこは気持ちが良かった。
クライネは、その様にただ感嘆とするばかりであった。オウルもシュルヴェステルも、そのようであった。
「久しぶりにこんな景色を見たって感じ、するわね」
レフォーナが言った。その顔には、まるで自分の故郷に帰ってきたかのような、そんな安心感と温かみが感じられた。レフォーナとて、一エルフ。それだけに自然の多い場所は彼女にとって居心地がいいのだろう。クライネにとってもそれが言えるのだが、彼女はこのような場所で暮らしたことなど無かった。
「普通のエルフってこんな場所に住んでるんだねー…」
と、クライネはしみじみ思っていた。
小さな虫が、彼女に近寄り、彼女の周りを漂っている。その様は、まるで珍しいものを見るかのようであった。
クライネはその虫を捕らえようと体を動かすが、中々にすばしっこい。今度はオウルの周りをぐるぐると回り、ディスティル、シュルヴェステルと一行の周りを遊ぶように、跳ねるように飛んでいた。
『何をしてる?』
「え、何って…」
シュルヴェステルには、小さな虫が見えていないようだった。いや、虫ではなく、それは妖精だった。
そう言えば、とクライネは、ルーンフォークは妖精が見えないと言うことを思い出した。人間に作られた種族であるためか、彼らは神の声が聞こえず、妖精も見えない。そのため神官になどなれないし、妖精使いにもなれない。更に、ルーンフォークは《蘇生》を受けても過去一年間の記憶障害が起こるのみで、穢れは溜まらない。そのこともあってか、度々「彼らには魂が無いのか」と議論の的になることさえある。変わったところでは「ルーンフォークも魔法生物の一種だ」と人族の範疇に入れることをも疑問視する人間もいるそうだ。
ただ、妖精の存在を感知することは出来るし、妖精魔法の効果だって問題なく受ける。妖精魔法による回復が効果を及ぼさない魔法生物と違うのは、その点だった。
今シュルヴェステル以外の人が目にしているそれを、シュルヴェステル自身は見ることが出来ないのだ。
「妖精がいるのよ。それもたくさん」
今彼らの周りを飛び回っていた妖精とは別に、かなりの数の妖精が確認された。手の平に乗るくらい小さな、可憐な姿をした少女が、羽根を生やして辺りを楽しそうに飛び回っている。
中には、一際強いマナを吸収して大きくなった妖精もいる。
「いっぱいいるなあ。ノームに、あっちにはヴァンニクもいる。あ、ムリアンだー」
クライネは足元にいた蟻の集団をしゃがみこんで眺める。巨大な物体が急に動いたことで、蟻…ムリアンの群れは驚き、そそくさと離れていくが、小さいためかクライネにとっては一歩進むくらいの距離しか動けていない。ので、彼女はムリアンたちを追いかけていく。
「…シュル、何だあれ」
『変態』
「クライネ、気持ち悪い」
「きめえwwwwwwwww」
今までの彼女とは思えないほど無邪気なその行動は、ディスティルをはじめ、その一行全員が引いた。当のクライネはそんなことはお構いなしにムリアンたちをただ追いかけていくのだが。
「にしても、あれ、小学生が蟻を面白がって追いかけていく、みたいなやつか?」
『ディー、リアルリアル』
不意に、何かがぶつかる音がした。ゴッ、と、硬い音が。
音がした方を見れば、クライネが木に頭をぶつけている様が目に入った。どうやら、ムリアンの群れを追いかけすぎて頭をぶつけたらしい。ズリズリと木に頭を擦りつけながら地面に寝そべり、次の瞬間には涙目で頭を抑えていた。
「…俺、久しぶりに見た気がするぜ、あれ」
『私も』
シュルヴェステルには妖精が見えないので、クライネが勝手に木に突っ込んで、勝手にぶつかって、勝手に痛がっているようにしか見えなかった。それはディスティルたちが目にしているものより、よほど間抜けに見えたことだろう。
ともあれ、そんなクライネを見たのが、数年ぶりかのように感じる。実際には数日ほどしか経っていないが。
何せ、ここのところ戦闘続きで、この数日が長く感じられたし、息つく暇なんて無かった。クライネの様子を一々伺っている暇もまた、無かった。
ディスティルたちは「懐かしいものが見えたな」と言う、愉快とも不愉快とも取れる感想を持った。
「それよりさ、ほらこれ」
辺りの探索をしていたオウルが、土や草に覆い隠された碑文を発見していた。オウルにはそれは読めなかった。ディスティルも、シュルヴェステルもまた。
だが、レフォーナは読めた。
「エルフ語ね。…『今再び試練は舞い降りる。妖精の魂よ、その翼以て高く跳べ』ですって」
「妖精の魂…妖精って魂あるのか?」
妖精は、この世界に満ちるマナが風や水などの自然現象と融合して、形を成したものだとされている。その出自ゆえ、始まりの剣や古代の神々がばら撒いた魂は宿っていないとされる。
故に、ディスティルは「妖精の魂」と言う言葉が引っかかったのだ。
「いや、そういう意味ではないと思うの。ここでの妖精はきっと、『”妖精神”アステリア』のことを言っていると思うわ」
”妖精神”アステリア。エルフの祖とされる、自然と調和して生きることを教義とする神である。妖精を生んだ神、または妖精が始まりの剣に触れて神格を得た神だとも言われている。その教えやエルフの祖と言うこともあり、エルフの間では根強く信仰されているという。
「ということは、エルフの祖であるアステリアの魂ってことか?」
「正しくは、エルフの魂よ。アステリアの魂がここにあるわけないもの。…『今再び試練は舞い降りる』ってことは、既に試練があったってことだわ」
「あー、とどのつまりは、今までの階で試練があったエルフが、この階の試練の元になっているっていうことだな」
「そうね、確認しましょう。まず、第一層はクライネの試練、第二層はオウルの試練、第三層は分からなかったけど、恐らくはあなたの試練よ」
ディスティルは答えなかったが、レフォーナにはその行為自体が答えだと認識されたようだ。
「この中でエルフなのは、クライネか。ということは、またクライネの試練、ってことか」
「そうなるわね。今度は何があるのかわからないけど」
ディスティルは未だ無邪気に妖精と遊んでいるクライネを見やる。
…これから試練を控えているとは思えない無邪気さだな。気持ち悪いくらいだ。いい年して何やってんだか。そう思いはしたが、いつ切れるか分からない緊張感がそう続くわけもない。今は戦いのことは忘れた方がいいのかもしれない、そうも思った。
ところで、クライネと一緒になってオウルまで遊んでいるのは何故だろう。お前はドワーフだろうに。そうも思ったが、それは頭の片隅においておこう。
時間感覚の違いから言っても、エルフとドワーフは衝突しやすい。規律や秩序に厳格なドワーフと、ゆったり、のんびりしているエルフとは馬が合わないのだ。
ただ、クライネに限っては、人間に育てられたこともあってか、時間感覚に関しては人間と同等ではあった。…それがドジの原因でもあったのだが。
「あーっ、クライネがきれいな女の人にさらわれたー!」
そう叫ぶオウルの声が、ディスティルには悲痛に聞こえなかった。
(…あれはウンディーネだっての。まあエルフだし、水の中はまず問題ないだろ)
しばらくすると、今度はシュルヴェステルの声が。
「ああっ、お嬢様が炎にさらわれていく!」
(いやドワーフだから。火は大丈夫だから。ていうか何でサラマンダーが森にいるんだよ…。ていうかお前また喋ってるし…)
世話が焼けるな、森も焼けるな、と思いつつも、ディスティルは重い腰を上げた。
…そんな具合にはしゃぎ回る妖精たち(とガキ二人)に四苦八苦しつつも、妖精たちが指し示す道を進んでいく。その先に、開けた空間に出る。そこだけ、木が生えていない空間があった。
そして、そこに待つのは二人のエルフ。
一人は女。銀色の長く伸びた軽い癖のある髪はどこまでも透き通っているようで、迷宮の中なのにも関わらず吹いてきた風に煽られてその髪は天使の羽のように広がっていた。
一人は男。茶色のサラサラした髪質の短髪であり、耳の手前の毛…つまりは揉み上げはあごに届くまで長く伸びている。肌は小麦色であるが、これは海辺のエルフだからではなく、単に日焼けによるものだろう。手首からわずかに色白の部分が見て取れた。
二人のエルフは、一行に対して背中を向けていたが、彼らの気配に気付いたのかゆっくりと振り返る。
女は、顔立ちはエルフの中でも「綺麗」の部類に入るものの、どこか見たことのある雰囲気をかもし出していた。ローブの上に巻かれた腰の帯には装飾のある宝石飾りがあり、そこにはそれぞれ色の違う宝石が六つはめ込まれている。表情はと言えば、自らの家に現れた訪問客に対して「誰かしら」と訝しむ時のような顔だ。
男は、骨や角で強化されたソフトレザー…ボーンベストを着ている。左手には鞘に収められた片手用の剣が握られており、右手には凧のような形の盾があった。その表情は、やってきた客人をもてなすかのような顔であった。
彼らは一行の姿を一人一人確認し始める。トーマス、レフォーナ、オウル、シュルヴェステル、ディスティル…そして、クライネ。
ゆっくり、実にゆっくりとした動作であったが、女の動作は優雅であった。クライネの姿を見つめたまま、女は表情を柔らかくする。
「まさか、こんな形で出会うことになるとは思わなかったけれど…」
そう女は言う。容姿だけではなくその声すら、透き通っている。
「会えて嬉しいわ、クライネ…」
クライネは驚きを隠せなかった。
今目の前にいるエルフの二人とは、面識が無い。だが、確かにこの女はクライネの名前を言い当てた。クライネにしてみれば、何故知っているのか不思議に思うのは当然のことだった。シュルヴェステルは「またか」と言いたそうな顔をしているが、特に気にするべきことではない。
思えば、女の持つ雰囲気は、どこかクライネに似ていた。いや、クライネの持つ雰囲気が、彼女に似ているのだ、と言った方が正しい。
「はじめまして、私はメイル・フェーンハフト」
メイルは、自分の胸元に右手を置いて、そう言った。
フェーンハフト。その名は、クライネの姓でもあった。
「フェーンハフト…ということは?」
クライネは、何故その女…メイルが自分の名前を言い当てることが出来たのか、その理由を理解した。それならば、私の名前を知っていてもおかしくは無い。そう思う。
「そう、私はあなたの母親」
クライネは一度も顔を見たことは無かったが、メイルの姿から自分に似た雰囲気と、本当に母親であるかのような、暖かい何かを感じた。
今回に限って、ディスティルたちは静かにしていた。今までのことから、「試練」の形式は分かっていたためだ。
「お互い、一度も会うことは無かったけれど、私はいつもあなたのことを見守っていたわ…」
「母さん…」
クライネは、それ以上の言葉が出ない様子であった。
「本当はいろいろ話したいこともあるんだけどね…」
「そうだよ、メイル。俺にも話させてくれよ」
今まで黙っていた男が、そう言って前に出てくる。
「久しぶりだね…というより、はじめまして、と言った方がいいかな?」
「あなたは…?」
「俺はティノルード・ムロリース。クライネ、君の父親だよ」
ルードはそう言った。そして、言葉を続ける。
「俺が死んだとき、君はまだ赤ん坊だったから、覚えてないのも無理は無いよね」
「父さん…」
いや、かすかに覚えている。エルフにしては力強い腕に抱きかかえられた時のことを。ただ暖かくて、それでいて優しさにあふれたあの腕を。
頭ではなく、体が覚えている。ラックの腕とはまた違った暖かみを、米粒ほどの僅かな大きさではあったが、確かに覚えている。
だが。
「あなたが私の…、俺の父さん…。でも、話に聞いていたような人とは、少し違う気がする…」
まず、その物腰。ラックの話では、一見柔らかそうに見えて、実際話をしてみると意外に硬い。そう聞いていたが、目の前の男…ルードからはそういった印象を受けない。剛毅果断、そういうに尽きる雰囲気が、彼からは感じられた。
「まあ、リーダーの従者だったこともあったしね。リーダーと同じことを言うようだけどね、今は違う…っていうことだよ」
今は違う。
確かに、ラックも言っていた言葉だった。
ラックもルードも、メイルも、アリオブルグでさえ、殺された当時と現在ではその精神に大きな違いが生じていた。それが正しい方向に向かうか、間違った方向に向かうかの違いはあったとしても、「今」と「昔」は違っていた。
「ところで、君は練技は誰から習ったんだい。ラックからは習ってないみたいだけど?」
「…冒険者の店のマスターだよ、俺が育った町の」
「なるほどね」
あのマスターなら、確かに得意そうだしなあ、そう感心する。しかし、たしか「さすらいのおヒゲ亭」のマスターであるドワーフは戦士だったはず。ドワーフの戦士が脚力強化の練技が必要であるかどうか、疑問に残るところではある。もしかしたら、基本だけ教えて後は自分で編み出せ、という考えだったのかもしれない。
「じゃあ、妖精魔法はいつから使えるようになったの?」
そう聞いたのは、後ろにいたメイルだった。
ラックと共に魔剣の迷宮へ挑んだときにはとっくに妖精魔法を使えていたが、実際のところ、クライネが妖精魔法を使えるようになったのはほんの五、六歳の頃だった。人里に迷い込んできた妖精と仲良くなり、自然に妖精の言葉が分かるようになっていったのだ。
妖精魔法を習得するには、それなりの才覚が必要とされる。それは、魔法やマナに対する知識や、それをどう使うかの応用などではなく、語彙が乏しく、記憶力も殆ど皆無で時間感覚が殆ど無い妖精たちとの意思疎通を上手く図れるか、といった能力のことだ。
それ故に、人族の性質とは離れたその存在と意思疎通できる人族は、変わり者が多いのだという。俗に言う「電波」というものだった。
ただ、人族にとって妖精の言葉を解明したのはエルフであるし、彼ら独特の時間感覚や自然と調和して生きるという観点から見ても、エルフは妖精と接しやすい性質を持っていた。だから、妖精使いとして優秀なものにはエルフが多いのだ。
勿論、エルフ以外でも優秀な妖精使いは存在するということも、忘れてはならない。
「そう。あなたも、妖精の言葉を自然に覚えたのね」
「あなたも、って?」
「私も同じよ、クライネ。どうやらあなたには、私と同じような、妖精使いとしての才能がありそうね」
妖精使いとしての、クライネの才能。
彼女自身、それを特に気にしてはいなかった。ただ迷い込んできた妖精と仲良くなり、遊んでいるうちに自然と覚えただけのことだった。そしてその技能は、自分でも知らぬ間に着実に伸びて行ったのだ。
しかし、それは妖精使いにとっては当たり前のこと。特別「これができれば一人前」と言えるようなボーダーが無い妖精魔法は、妖精との親和性と自身が妖精に与えることの出来るマナの増加によって強化される。つまり、長い間妖精と関わりあうことで、妖精魔法は強くなっていく。
「…クライネ、それからクライネの仲間たち。これがミラージュの受け渡す、あなたたちへの最後の試練よ」
「君たちは、先に最後の層へ向かうと良い。そこに君たちへの最後の試練がある。クライネは、ここで私たちと戦う。それが最後の試練だ」
二人は口々に言う。これが最後の試練なのだ、と二人は言うが…。
「いやルード、一人くらいはここに残ってもらいましょう。そうね…そこのエルフのお姉さん」
メイルはレフォーナを指差した。
「あなた、見たところ魔法使いよね。どう、私と戦ってみない?」
メイルのその言葉は挑発的であったが、そういう態度に慣れていない節があった。元来、好戦的ではないのだろう。まるで「先輩に言われたから、仕方なくやっている」といった雰囲気である。
レフォーナはそのわざとらしい挑発に乗ることにした。
「そうね、お手合わせ願おうかしら」
「話が早くて助かるわ」
ディスティルたちは先に行くことに賛成のようではあったが、どこに行けば良いのか迷っている、と言ったところだった。
「ディー、これを」
そう言ってレフォーナが差し出したのは、鍵。鏡のように光を反射している、小さな鍵だった。
「これは恐らく、その先で使うものよ。さあ、行きなさい」
「お、おう」
ディスティル、トーマス、オウル、そしてシュルヴェステルは歩き出す。ディスティルがルードとすれ違う時に、ルードは彼に言った。
「この先の森を抜けた先に扉がある。それが最下層へと続く扉だよ」
クライネも、レフォーナもメイルも、ルードも動かない。ただ、ディスティルたちが見えなくなるのを待っていた。
「…さて、クライネ。俺たちは全力で行くから、君も全力で来るんだ」
「あなたは、私たちに守りたいものを守れる力があることを示しなさい」
ルードは目を閉じ、深く息を吸い込む。手に握られた紫色の石から光が失われていくのが見え、完全に光を失った石はひとりでに割れる。この石は魔晶石という、マナが結晶化したものだ。
…ルードの周りに一瞬だけ炎のようなものが湧き出て、髪も服もマントも、足元から体の隅々まで伝わる波動に煽られる。次の瞬間には、ルードの全身の筋肉は引き締められ、両の目には細い筋が浮かんだ。
練技だ。それも全身にわたってを一瞬で強化した。どうも、ラック以上に練技に習熟していると見える。
クライネは、その姿を見て若干の恐怖すら浮かんだ。…恐怖といっても、それは勝てるかどうかの可能性を算段した上での恐怖だ。何も、異種の力におびえる恐怖でも、圧倒的な力に支配されるが故の恐怖でもない。自分は勝てないかもしれない、そのことに対する恐怖だった。
しかし、すぐに思い直して、鞘からバスタードソードを抜く。
今は、何も考えず戦う方がいい。
守りたいものを守れるだけの力。
そうだ、力を示すんだ。俺の力を。
「…わかったよ。母さん、父さん……」
クライネは剣先をルードに向け、体勢を低くして飛び出す。それに合わせて、ルードも剣を抜き、飛び上がった。
ここに、決戦の火蓋は切って落とされた。
「行くよ!」
「来なさい、クライネ!」
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