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支離滅裂なことを書いてるただの自己満足ぶろぐ。 中の人は基本痛いです
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作曲、落書き、睡眠、TRPG、創作
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痛い人



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前節の魔法の利用法についてだけど、本来はああする目的で使うものじゃねーから!

最初に言っていた通り、戦闘関連はSW2.0のシステムに忠実にはしないよ。

更に言えば、この小説における魔法の描写が正しいものかもわからない。


この節の内容に触れると、まあ、アレだ。

良くも悪くも厨二ですね。はい。



 アリオブルグは立ち上がり、その男を睨みつける。
「こ…の、野郎…ッ!」
 男…ディスティル・ロッドは、どこまでも鋭い目つきでアリオブルグを見つめていた。
 その様子は、オウルとシュルヴェステルの二人を圧倒したアリオブルグにさえ、、悪寒を感じさせた。
 ディスティルは、一歩ずつアリオブルグに近づいていく。両の拳を硬く握り締めたまま。
「お前を許すわけにはいかねえなあ」
「ハッ、何を言ってる。悪戯に穢れを与えようとするものに対して制裁を加えるのは当然のことだろう?」
 アリオブルグの挑発に応じず、ゆっくりと、歩を進める。
(誰も見ていない今なら…)
 ディスティルはバンダナを取る。小さな角が、彼の額からその姿を覗かせていた。それは、ナイトメアであることの証。それは、人にとっての忌むべき印だった。
 同時に、彼らの持つ力の証でもある。
 見る見るうちに、その角が肥大化し、ディスティルの肌が青白くなっていく。
 異貌。
 人族のうちに数えられながら、ナイトメアはその容姿ゆえに、国によっては蛮族と同様に扱われることもある。
 人として見られず、乳児のうちにその命を刈り取られることの方が多い。
 しかし、彼らは成長するにつれて、その特徴的な容姿を隠すことが出来るようになる。そんな彼らが本来の姿に戻るとき、それは彼らが本当の力を発揮するときなのだ。
 ディスティルは、右手を突き出す。アリオブルグは本能的にそれのやばさを察知したのか、身構えた。
 衝撃波が、アリオブルグを襲った。
 空気が弾ける音がして、アリオブルグは吹っ飛ばされた。
(ばかなっ…、最大限の抵抗はしたはずだぞ…!)
 間髪入れず、連続して衝撃波が来る。何度も何度も、それを受ける。しかし、それらの持つ魔力は全てアリオブルグの精神力を抜き、彼に多大なダメージを与えた。
 そして、更に重い一撃。神の拳が、アリオブルグの全身を殴りつけ、その衝撃に彼は吹っ飛ばされる。
「があっ!」
 立て続けに起こった衝撃に全身を打たれ、アリオブルグは咳き込む。やっとの思いでディスティルを睨みつける。
 …そこには、信じがたい光景があった。
 その「異貌」は、これまで見てきた、どんなナイトメアの「異貌」ともあまりにもかけ離れていた。
 脇腹に見えるディスティルの痣が、服の上からでも分かるくらいに、赤く発光していた。しかも、その形は剣を象っている。それはまるで…。
「お前、まさか…!」
「黙れ。俺はライフォスの神官だ…!」
 ラクシアに存在する神々の多くは、始まりの剣に触れることで生まれた。
 ”調和の剣”ルミエルに触れたものはルミエルの勢力に数えられ、”解放の剣”イグニスに触れたものはイグニスの勢力に数えられる。
 ルミエルの勢力とイグニスの勢力との間にある違いは、その性質にある。
 ルミエルの勢力は「調和」を初めとする、人の心の善なる部分を象徴するものであるのに対し、イグニスの勢力は「解放」や「死」を初めとした、人の心の悪なる部分を象徴するのだ。
 ディスティルの信仰する神、”始祖神”ライフォスは、ルミエルの勢力に属していた。
 だが。
 赤く発光した痣は、不自然なほど整えられた、剣を象ったものだった。
 それは、イグニスの勢力に属する”戦神”ダルクレムの聖印に記されたシンボル。「解放」を司る、「調和」を主な教義に上げるライフォスとは対極の関係にある神。
 …確かに、《聖弾》から流れてくる力の質は”第一の剣”ルミエルに属する神々のものだった。
 しかし、それでは説明のつかないこの違和感は何だ。
 お前は、何者なんだ?
 そんなことを問いたい気持ちは山々だが、今はその時ではないだろう。そもそも、この男ですら把握していないだろうから。
「…どうやらお前を見くびっていたようだ。本気を出そう、私の本当の力を」
 そう言って、アリオブルグは魔法を唱える。
「操、第二階位の補。反発、抵抗、消滅――抗魔」
 アリオブルグの周りに、薄いマナの壁が張られる。魔法に対する抵抗力を高める魔法、《反発魔法》。
 更にアリオブルグは、精神を集中させる。
 元々大きいアリオブルグの角が、更に肥大化し、ディスティルと同じように肌が青白くなる。
「さあ、始めようじゃないか。殺してやるよ、同胞!」
「一緒にするんじゃねえ!」
 アリオブルグとディスティルが、互いに突進する。
 ディスティルの両腕の攻撃を軽い動きで両者ともかわし、アリオブルグは意識を集中させる。
 ディスティルの腹部にアリオブルグの手が触れると、そこからディスティルの何かが吸い寄せられて、アリオブルグに吸収される。ディスティルの顔から精気が失われていき、逆にアリオブルグが受けた傷は回復していく。
 《吸奪》。触れた相手の精気を吸い取る、恐ろしい呪いの一種だ。
「こんの…野郎ッ!」
 ディスティルは左手を突き出し、そこから《聖弾》を放った。超至近距離からの攻撃に、アリオブルグは避ける間もなく、ディスティルはそこから更なる連撃を放つ。
 一発目はどうにか受け流したが、二発目は当たった。しかし、先ほど受けた魔力を込めた一撃よりかは重くない。
「甘く見るなよ、同胞!」
 またもアリオブルグは《吸奪》を放つ。近付かれまいとするものの、無駄だ。
 こちらの速さとアリオブルグの速さは互角。しかし、アリオブルグには不死神の《祝福》がある。その分だけディスティルが不利だった。
 結果、アリオブルグは、ディスティルにいとも簡単に接触した。
 しかし、ディスティルは今度はそれに対して抵抗した。来るとわかっていれば、抵抗するのはそう難しいことではない。
「二、三聞きたいことがあるぞ、同胞!」
「こっちこそ、てめえには聞きたい事だらけだ!」
「そうかい!」
 魔力を込めた拳が、アリオブルグを殴りつける。しかし、二発目を受けた直後、また《吸奪》を食らう。先ほどのそれとは、全く異なる魔法の威力だった。
 それをディスティルは抵抗出来ず、アリオブルグの手を振り払って距離をとる。
「てめえ、オウルを殺したな!」
 ディスティルの右の拳が、アリオブルグを襲う。
「ああ、そうだ!」
 杖でその攻撃を弾く。続いて左の拳。
「シュルも殺そうとしたな!」
 その攻撃すら裁き、アリオブルグは反撃に出る。
「それがどうした!」
 アリオブルグの右手から衝撃波が飛び出し、ディスティルの拳を弾く。その狙いは正確で、攻勢に出ようとしたディスティルを挫くには十分だった。
「許さねえ!」
「それがどうしたと言っている!」
 精気を吸い取り続けるアリオブルグと、その彼に着実にダメージを与えるディスティル。
 二人のナイトメアの死力を尽くした戦いは、いとも簡単に形勢を変えるのだった。
 戦いがしばらく続いた頃。細かく言えば、アリオブルグの《氷化武器》が解け、マナスタッフの打撃力が落ちた頃。
 ディスティルの息はかなり上がっていた。
 アリオブルグ・ヴァイザルグ。その見た目以上に、邪悪で途轍もない強さを持っている。
 そのことを、数分の戦いを通してディスティルは理解していた。
「大分息が上がってるなあ、同胞」
「うるせえ…。お前と一緒にすんなって言ってんだよ…!」
 アリオブルグに殴りかかるが、軽くかわされる。二撃目を避けたところでアリオブルグはディスティルの腕を掴み、その身体を床へ叩きつける。
 そして、《氷化武器》で強化したマナスタッフを、ディスティルの背中目掛けて振り下ろす。
(やられる…!)
 そう思った矢先、それは現れた。
 ――生きろ。
 たった三文字の言葉であったが、それははっきりと聞こえた。
 ――死ぬな。
 またもはっきりと聞こえる、その声。
 ――奪え。
 少しずつ、精神が狂気に冒されていくのがわかる。負の感情が、ディスティルの中に流れ込んでくる。
 ――戦え。
 破壊の衝動が、心を蝕んでいく。
 ――殺せ。
 その言葉は、奔流となってディスティルの中を駆け巡った。
 生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ生きろ死ぬな奪え戦え殺せ……。
 突然、その奔流がぴたりと止む。しかし、それは束の間の休息でしかなかった。
「おおおおおおおおおおっ…!」
「な、何だ?」
 二度目の奔流が堰を切って流れ出すと共に、ディスティルは雄叫びを上げた。
 異変に気付いたアリオブルグは、本能的に危険だと感じ、振り下ろしかけたマナスタッフを止めようとした。
 しかし、既に遅かった。
 身体を転がして、ディスティル…だった何かは仰向けになり、マナスタッフを片手で受け止めた。
 そして、身体のバネを利用して、マナスタッフを思い切り蹴り上げる。
 今までとはまるで違う、半端でなく大きい打撃力に耐え切れず、マナスタッフは粉々に砕け散る。
 目の前で起こった事態を、アリオブルグは信じられなかった。いや、信じたくは無かった。
「貴様、その力は…何だ!」
 ディスティルだった何かは答えない。その返事として、返すものは何も無かった。
「グオオオオオオオオオ……ッ!」
 人のものとは思えないその雄叫びが、アリオブルグに恐怖心を芽生えさせた。何だ、この力は。何だ、この威圧感は。
 何だ、この化け物は。
 アリオブルグは、ディスティルだった何かに向けて《神の拳》を放った。だが、その拳はいとも簡単に受け止められる。
「フンッ!」
 攻撃の軌道が逸れ、《神の拳》は壁に大きな穴を開ける。ディスティルだった何かは両手をポキポキと鳴らし、アリオブルグに近付く。
「くッ…」
 アリオブルグは《強酸の雲》を生み出す。先ほどよりも早く、魔法が完成した。…だが、それでも遅かった。
 化け物が放った《神の拳》が、アリオブルグを吹き飛ばしていた。鉾槍による一撃にも匹敵する打撃力による衝撃が、既に完成していた《強酸の雲》を吹き飛ばす。
 そして、立て続けに《神の拳》が叩きつけられる。一発、また一発と、その拳はアリオブルグの体力を奪っていった。
「ぐッ…、がは…うげぇ…ッ」
 やがて、アリオブルグは壁に叩きつけられる。その後も、壁と拳に板ばさみにされて、もはや動くことすらかなわない。
 化け物はアリオブルグの襟首を持ち上げ、右手で魔力のこもった一撃を、彼に打ち込み続けた。
「があッ、ぐああッ!」
 血反吐を吐きながらも、その苦しみは止む気配が無い。アリオブルグを、ただ殴り続ける男の姿がそこにあるだけだ。
 ここに、彼を助けるものなどいない。
 突然、アリオブルグは振り落とされる。受身を取ることすらかなわず、右半身が床に叩きつけられる。
 化け物は、とどめだと言わんばかりに、右手に巨大な魔力を込めた。そして、それを床に叩きつける。
 周囲の敵を残らず吹き飛ばす《致死爆撃》。”戦神”ダルクレムの信者の中でも、最高司祭のみが使え得る、最強の攻撃だった。
 強大な衝撃波が生まれ、アリオブルグはそれに飲み込まれる。
 そのあまりの強烈さに、体組織の全てが悲鳴を上げ、崩れ落ちていく。手も足も胴体も、全てがその衝撃波の前では無力であった。
 壁が崩壊し、床さえ砕け、そこに砂埃が立つ。強大な力の奔流が、化け物の周囲を破壊しつくしていく。
 アリオブルグだけでも、床だけでも壁だけでも物足りず、その力は破壊する対象を求めて暴れまわった。
 破壊の衝撃波が収まり、砂埃さえ晴れてきたときに、その場に存在していたのはディスティル・ロッドであった化け物のみだった。

「うひゃあ。滅茶苦茶するなあ、あいつ」
 そう言ったのは、爆音を聞いて、ディスティルの戦いを様子見ていたクライネだった。
 その隣では、レフォーナが《蘇生》の詠唱を淡々と進めていた。長く、相当な集中力を必要とする詠唱であったが、レフォーナはそれを意にも介していない。
 ただ、呪文を唱えるのみだった。
 シュルヴェステルは、その様を、オウルを、何ともいえない表情で見ていた。やはり、複雑な心境であるのだろう。クライネにも、それがよく伝わってきた。
「オウル…」
 魂の穢れ。
 子供の頃から冒険者として育ってきたクライネには、それが如何様にして人に嫌われるのかわからなかった。それは、《蘇生》に対する一般人と冒険者の抵抗感の違いを知らないからであろう。
 一般には、冒険者でない限り《蘇生》を受け入れることは無い。魂が穢れるからでもあるし、もし《蘇生》に失敗してアンデッドになったら…そう考えるだけでぞっとする。
 しかし、冒険者にとって《蘇生》は必ずしも悪いものではない。旅の中で出会った、大事な仲間を失わずにすむし、勿論、自分が生き返ることも出来るからだ。
 それでも、重度の穢れは忌むべきものとして見られる。人族の天敵である蛮族が、ある程度の穢れを取り込んだ末に力を得たからだ。
 とはいえ、一回や二回の《蘇生》で、アンデッドと化すことも、蛮族と同じように見られることも無い。更に、生まれながらの穢れを持つナイトメアの存在もあって、冒険者の間における《蘇生》は一定の評価を受けている。
 《蘇生》への抵抗が少ない冒険者の中で育ったクライネは、穢れへの見方が一般人のそれとはあまりにも違うのだ。
 そんなクライネが穢れを忌避するのだって、ただ「妖精たちが穢れを嫌うから」であって、本人の事情は全く絡んでいなかった。
(オウル、あんたはこれでいいの…?)
 過去の因縁も、今ある仲間も、全て無い場所へ行くなら、それで解放されるなら、構わない。そう思っているのかもしれない。
 だが、クライネにはどうしてもそれが良いとは思えなかった。シュルヴェステルだって、同じ気持ちであろう。
(こんな悔しい思いをしたままで、何の恨みも晴らせなくて、それで本当にいいの…?)
 少なくとも、私自身はいやだ。そう思う。
(だから、今は穢れても何をしても良い。答えを見つけなきゃ、死んでも死にきれないんじゃないの…?)
 その呼びかけは、オウルに届くはずも無かった。
「復活、輪廻、因果、切断、阻害、与穢、魂導…」
 レフォーナの詠唱が、がらりと雰囲気を変えた。詠唱が中盤に差し掛かったのだ。そこから更に、がらりと雰囲気を変え、元の調子に戻る。
 詠唱の完了まで、あと四半刻は待つ必要があった。

 床のタイルが粉々に砕け、壁すら消し飛び、そこに立っているのはただ一人。
「…俺は、何をしていたんだ?」
 覚えているのは、アリオブルグに追い詰められ、マナスタッフを振り下ろされるその瞬間までだ。
 そこから先の記憶は無い。
 かなり気味が悪かった。
 だが、生きている。ディスティル・ロッドは生きている。
「これは…?」
 辺りを見渡すと、辺り一帯が消し飛んでいた。
 アリオブルグの姿は無い。…いや、アリオブルグだったそれらは、細切れになって散らばっていた。
「俺が、やったのか…?」
 急に、吐き気が込み上げてくる。
 今まで、こんなことはなかったが、それとは明らかに状況が違う。何がなにやら分からない。
 何も理解出来ない、何も覚えていない、何一つ。そんな中、それらの肉塊を見てしまったら、動転した心は身体に影響を及ぼすのは当たり前だろう。
「我ながらヤワだな…」
 しゃがみ込み、口を押さえ、ディスティルはそう呟いた。

「操、第七階位の蘇。残照、奇跡、背律――還命」
 《蘇生》の詠唱が完成する。
 シュルヴェステルも、クライネも、ディスティルもトーマスも、全員が固唾を呑んで見守った。
 光が、その場所に満ちていく。それは粒であり、一つ一つが異なる輝きを持っていた。
 それは交じり合い、やがて一つの光になっていく。
 光はオウルの体内へと入り込み、身体全体が光り出す。柔らかな、淡い色を放ち、その光は少しずつ弱まっていく。
 光が完全に失われた時、オウルの顔が動いた。
 それは、一瞬だけのことだったのかもしれない。だが、確かに動いた。
「お嬢様…?」
 閉じられていた目が、ゆっくりと開いていく。完全にその機能を取り戻した双眸が、最初に見るのはシュルヴェステルの顔。
「すー…ちゃん……?」
 起き上がって、オウルはそこにいた全員の姿を眺める。…みんな服がボロボロで、見っとも無い。
 そう思う自分の服ですら、背中の布が焼け落ちたかのようであった。
「…みんな、ヘンな格好」
 まず、思ったことを口にした。
 そんな様子を見て、耐え切れずにみんな笑い出した。
 確かに、ここのところ服装に気を遣う余裕など無かった。こんな格好では、外を歩くことなど出来ないだろう。
 そう思うほどに、彼らの服は酷い有様だった。
「さっきまでのお前の様子よか大分マシだよ」
 笑いながら、ディスティルが言った。
「ホントホント。私たちなんかまだまだだよ」
 次にクライネ。
「でも、無事に成功して良かったわ」
 そしてレフォーナ。シュルヴェステルは感極まって逆に何も言えない様子であった。トーマスは空気を呼んで敢えて喋らなかった。
「お嬢様…」
 シュルヴェステルの様子に気付いたのか、ディスティルたちはオウルとシュルヴェステルから離れる。
 だが、レフォーナにとって、それだけが目的ではなかった。
「…今のところは、彼女に穢れの証は出ていないわ。でも、次にまた穢れが溜まるようなことがあったら…」
「わかってる。そうさせないようにするさ」
「それと、死の瞬間から一週間前までの出来事を彼女は覚えていないわ」
 記憶の障害。
 《蘇生》を行う際に、必ず起こるその現象は、自分の死ぬ瞬間を忘れたほうが良いという情けなのだろうか。それとも、救いなのだろうか。
 だが、オウルの場合、それが救いになるとは考えにくい。
 オウルの心に落とされた影が、彼女を殺したと考えられるからだ。
 それでも…。
「…今は、忘れたほうがいいでしょうね」
 事実、影に捕らわれて、オウルは死んだ。
 もう一度、わざわざそれに捕らわれるようなことはする必要がない。
「でも、いつか必ず、向かい合わなきゃいけない時が来るわ。その時、それを振り切れるかは、あの子次第よ」
 そう。
 今は、忘れたほうが良い。
 自分の影に向かい合う、それだけの力が、幼いオウルには足りなかったのだから。
 それだけの覚悟が、幼いオウルには出来なかったのだから。
 いつか大人になって、もう一度向かい合うその時まで、忘却の彼方に置いてきたほうが良い。
 いつか、向かい合う時が来るまで…。

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